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各 寄 稿 紹 介

微細藻類:イシクラゲを知っていますか

マイクロアルジェコーポレーション株式会社
代表 薬学博士・医学博士 竹中 裕行

 雨上がりの庭や公園,駐車場,墓地などにブヨブヨとしたワカメに似たものが大量に発生しているのをご覧になったことがあると思います。また,ご覧になって気持ち悪いと思われた方も多くおられると思います(図1)。
 あのブヨブヨとしたワカメに似たものは,「イシクラゲ」と呼ばれるシアノバクテリア(以前は藍藻とも呼ばれていました)の一種で学名は「Nostoc commune」です。顕微鏡で観察すると,お数珠のように5μm大の細胞がつながって糸状体を形成しており,和名では「ネンジュモ」と呼びます。シアノバクテリアは原核生物であるため,核やミトコンドリア,葉緑体などは確認できません。

 図1 イシクラゲ

 細胞自体が葉緑体の機能を持っており,細胞には光合成色素(クロロフィルa,フィコシアニン,フィコエリスリン)や炭酸同化を行う酵素が存在しています。糸状体の中には透明で他の細胞よりも一回り大きな,径が約8μmの細胞も観察されます。

 
これは異質細胞(ヘテロシスト,heterocyst)と呼ばれる細胞で,空気中の窒素をアンモニアに換える窒素固定が行われています(図2)。
 1941年の論文に,「100年以上乾燥状態で保存されていたイシクラゲの標本を培養液に浸したところ増殖し始めた」と報告されており,イシクラゲの生命力の高さに驚かされます。
 それでは,このイシクラゲが食べられる!と聞いてどう思われますか?
 イシクラゲは一般名称ですが,沖縄県では,沖縄本島と石垣島では「モーアーサ」,宮古島では「ヌィジュ」と呼ばれて祝い事などに利用されてきました。イシクラゲは雨が降る度に増えることから,子孫繁栄のカーリナムン(縁起物)としていた地域もあるそうです。琉球王朝時代の食医学書「御膳本草」には目の疲れや熱中症に良いと記されています。

 図2 イシクラゲの光学顕微鏡画像
矢印はヘテロシスト

 石垣島ではビタミンB補給に,また,宮古島で内臓の薬にもなると重宝されたそうです。また,沖縄では旧暦の12月8日に健康長寿を願って伝統のお菓子「ムーチー(鬼餅)」を食べるのですが,この鬼餅伝説にモーアーサ(イシクラゲ)が登場します。モーアーサ入りのムーチーで鬼を退治した話から,一部の地域ではモーアーサが呪術的な霊力アップの食材とされているそうです。
 「ふるさと伝承料理」,「琉球料理」,「沖縄100の健康料理」といった沖縄料理に関する書籍にイシクラゲ料理のレシピが掲載されています。2010年には人気アイドルグループのテレビ番組で,石垣島でモーアーサを採取して料理を作るところが放映されました。現在でも,宮古島の市場ではその日の朝に採取したイシクラゲが販売される時があり,炒め物や佃煮にして食されています(図3)。

図3 イシクラゲ採取の様子(左)と市場で販売されているイシクラゲ(右)
 

 沖縄県以外でも,滋賀県では「姉川クラゲ」と呼ばれて保存食として利用されてきました。そして,2018年には滋賀県内の大学が姉川クラゲ復活プロジェクトを立ち上げています。また,「イワキクラゲ」や「畑アオサ」と呼ばれるところもあり,全国で食べられていた可能性があります。30年ほど前には,岐阜県内の大学がイシクラゲのビタミンCに注目した食材への応用研究を,また同じころに福岡県内の大学がイシクラゲの食物繊維に注目した食材への応用研究をしています。2012年にはテレビのバラエティ番組で,庭先のイシクラゲを料理してたべるところが放映されました。
 早速,庭先のイシクラゲを採取して食べてみようかと考えられたあなた。土壌菌の中には食中毒菌が存在しますので,採取したイシクラゲをよく洗浄し,湯煎(煮沸滅菌)してから召し上がることをお勧めいたします。
 イシクラゲの一般成分は,一例としてたんぱく質が20%,脂質が0.1%,糖質が55%,灰分が5.5%,水分が17%と報告されています。糖質と聞いてドキッとする方もおられるかもしれませんが,この大半が多糖類なので,その機能性(生理作用)が期待されます。

 これまでに報告されているイシクラゲの生理作用をまとめて図4に示しました。多糖類はこのうち①~⑤に関わっていると考えられています。
 多糖類以外にも,トレハロース,ノスツロン酸,ノストシオノン,スキトネミンや還元型スキトネミン,そしてMAAs(マイコスポリン様アミノ酸)などの生理活性物質が報告されています。
 ノスツロン酸がコンドロイチンやヒアルロン酸の産生に役立つことを活用したサプリメントが2005年に上市されています(図5)。

図 4.イシクラゲの生理作用的効能

 ところで,2006年に国際宇宙ステーション(ISS)のロシアモジュールに搭載されて10日間の宇宙旅行後に帰還したイシクラゲがあります。
 これを種株として栽培されたイシクラゲをキャンディに練り込んだ「宇宙を旅した藻で作ったキャンディ」が全国のミュージアムショップで販売されています(図6)。

図5 イシクラゲを応用したサプリメント
図6 宇宙を旅した藻で作ったキャンディ

 

 食用利用とは別のイシクラゲ利用の研究も行われています。イシクラゲは空気中の窒素を固定するため(ヘテロシスト),植物栽培のための土壌作りの可能性が研究されています。これは,イシクラゲがテラフォーミングにも利用できる可能性をも示唆しています。
さらに,2011年の福島第一原子力発電所事故後の放射性物質に汚染された土壌の生物除染法としての活用も検討されています。
 上述のとおり,イシクラゲは多くの魅力(生理作用等)を持っています。そして,イシクラゲの研究は,現在も世界各国で行われています。イシクラゲには,まだまだ多くの可能性が秘められていると期待されます。
最後に,イシクラゲの応用開発は,「SDGs(持続可能な開発目標)」の取り組みにも合致していることを述べて本稿を締めさせていただきます。

■コンブと鉄鋼スラグが日本を救う

故 納土 伸男
1.海の「磯焼け」現象
 日本の沿岸各地で「磯焼け」といわれる海藻群落(藻場)の減少が目立ち始めたのは1990年代に入ってからのことである。
 「磯焼け」とは、海に育つコンブ、ワカメ、カジメ、ホンダワラなどの大型海藻が生えなくなり、水産生物の生息場として重要な役割を果たす藻場が減少し海が「砂漠化」する現象をいう。 例えば静岡県御前崎沖にあった山手線の内側の1.2倍に相当する8,000㌶のカジメ林が消滅したほか、長崎県や鹿児島県沿岸、高知県の大平洋に面した土佐湾沿岸や突端の足摺岬、能登半島沿岸など、全国各地の海で「磯焼け」が発生している。
 「磯焼け」が起こる原因について、現在いくつか挙がられているが、(1)地球温暖化による海水温度上昇、(2)藻食魚介類による食害、(3)沿岸開発による天然藻場の減少、(4)大量の河川水や砂泥の流入による沿岸域での環境汚染などが原因と考えられている。

2.藻場の重要性
 コンブなど大型海藻による藻場は、魚介類の産卵場所や餌場となる。さらにそこで生れた魚介類が大型の魚などに食べられることから逃れる隠れ場所となるなど、沿岸に棲む魚介類の成育には欠かせない場所となっている。
 従って日本の沿岸で「磯焼け」現象が進むと、国内沿岸漁業の衰退に繋がる。  最盛期には年間1,200万トンと世界一の漁獲高を 誇り、それに従事する漁業就業者も200万人を超え ていた我が国の水産業は、海外から安い魚介類の輸 入量が増大したこともあって、近年漁獲高は600万 トンと半減し漁業就業者数も20万人へと激減した。
 現在日本の水産業は「瀕死」の状態にあると言って も過言ではない。先に発表された農林水産省のデータ によると、国内魚介類の自給率は57%しかない。
 一方中国、インド、ブラジルなど中進国での目覚しい経済発展は国民所得の増大をもたらし、それらの国での食生活を向上させている。それに伴いこれまであまり食べていなかった魚介類を食べ始めたことにより、海外では水産資源の奪い合いが始まった。日本はこれまでのように、金にあかせて水産資源を世界中から買い漁ることが出来なくなっている。
 話は変わるが、コンブは一日あたりの成長速度が熱帯雨林のそれより遥かに速く、水温などの条件が良ければ一日で30cmも伸長し、その長さは北海道のマコンブでは15mにも達する。カリフォルニア沖のジャイアントケルプは最大60mにもなる。
 従って大型海藻の藻場は、その成長の過程で沿岸域での窒素やリンなどの富栄養塩を吸収して赤潮や青潮の発生を防ぎ、環境汚染の防止にも役立っている。また光合成作用で成長する海藻は炭酸ガスを吸収するので、炭酸ガスの固定化技術が開発されれば、将来大型海藻の藻場は有力な炭酸ガス固定源の役割を果たすものと期待されている。
 
3.バイオマスエネルギー源としての利用  
 最近の原油に代表される炭化水素系燃料価格の暴騰は、今後の世界経済に大きな影響をもたらすものと懸念されている。また炭化水素系燃料の燃焼時に発生するCO2による地球温暖化への影響は無視出来ないものとなって来た。人類はこれまでのように野放図に炭化水素系燃料の消費量を増やす事が出来なくなった。
 その代替燃料として「カーボンニュートラル」なバイオマスエネルギーが脚光を浴びているが、その原材料としてアメリカではトウモロコシや大豆が使用され、ブラジルでは砂糖キビが利用されている。しかし近い将来世界の総人口は60億人を超すと予想されており、食糧危機も今後の大きな問題となる。そのような状態のなかで、食糧として重要な役割を果たすトウモロコシや砂糖キビが、何時までもエネルギー源として利用されるとは考え難い。
 

 東京海洋大学の能登谷正浩教授を中心とする研究グループは、日本海中央にある水深400mの「大和堆」で、大型海藻の1種である「ホンダワラ」を養殖してバイオエタノールの製造を始める研究に着手した。
 「大和堆」の海面の3割強を使えれば、国内ガソリンの年間需要の3分の1に相当する2,000万㌔㍑のバイオエタノール製造が可能と試算している。 日経産業新聞(2007.7.10)は1面トップで、「日本が産油国になる日」と題してこの研究活動を報じている。
 東京ガスは海藻類をメタン発酵で処理し、出て 来たバイオガスを都市ガスと混焼して発電と熱 利用を図る、コジェネレーションシステムを NEDOと共同で研究開発した。
 
4.藻場造成に与える鉄イオンの影響
 「森は海の恋人」という素敵なキャッチフレー ズを生み出した、気仙沼の牡蠣・帆立養殖業者 畠山重篤氏のインタビュー記事を、「しんにってつ (2007.6号)」で読んだ記憶のある方がおられると 思う。海の上流に位置する山で、落ち葉が堆積して出来た腐葉土には「フルボ酸鉄 」という二価の鉄イオンが含まれており、川から海に流れ込んだ「フルボ酸鉄」が植物プランクトンや海藻類の成長には大いに関係しているという内容である。
 ジョン・マーチン博士の「鉄イオン仮説」が示すように、海の植物の生育には鉄イオンが欠かせない栄養素であることがほぼ定説となって来ている。
 新日鉄、㈱エコグリーン、西松建設などで構成する「海の緑化研究会」は、二価の鉄イオンを含む鉄鋼スラグと腐植酸を含む腐植土を混合した海の施肥材料が、藻類の生長促進に有効であることを明らかにしつつある。北海道増毛町の磯焼けした舎熊海岸での施肥実験では、施肥の翌年には大量のコンンブが生育していることが確認された。
 
5.沖の鳥島への鉄鋼スラグの利用
 東京から1,700km離れた南海の孤島沖の鳥島は、我が国の国土全体の面積を上回る約40万平方kmの排他的経済水域(EEZ)を有している極めて重要な島である。しかし中国は日本が沖の鳥島で「実効的な経済活動」を行なっていないとして、沖の鳥島の領有権に対して異議を申し立てている。これに対して石原東京都知事は、同島周辺での漁業業振興策として、今年1月に水深3,000mの深海に中層浮き漁礁を1億円以上の費用をかけて設置した。
 一方沖の鳥島は100年間に1cmずつの割合で沈降を続けており、地球温暖化の影響で将来海面が上昇すると、完全に水没する恐れがある。しかし、国連海洋法では鉄やコンクリートで作られた人工島は島としては認められていない。
 そこで我が国は沖の鳥島の「準卓礁」(沖の鳥島は海中では富士山のような形をしており、頂上付近は干潮時に海面上に姿を現し満潮時には水没するが、この部分を「準卓礁」と呼ぶ)でサンゴや大型有孔虫を養殖し、それらの死骸を堆積させて島を「嵩上げ」しようという誠に気宇壮大な実験を開始した。サンゴ礁が上方に発達する速度は、100年間に40cm程度と言われている。
 JFEスティールは鉄鋼スラグを利用したマリンブロックにより、サンゴ礁を再生させる研究を行なっている。鉄鋼スラグの成分である炭酸カルシュウムは、サンゴや貝殻と同じ成分であり、マリンブロックには稚サンゴが付着し易いと考えられている。
 先に述べた鉄鋼施肥材を使って、沖の鳥島の「準卓礁」(幅約1.7km×長さ約4km×水深約5m)で、熱帯性ホンダワラ類など水温の高い海でも育つ海藻を利用した藻場の造成が出来れば、魚の蝟集効果が高まり、枯渇期にはカルシウムを含む付着動物が固着すると期待される。そしてこれらの海藻が枯れてサンゴ類の死骸と一緒に海底に堆積すれば、沖の鳥島の造山活動(?)にも繋がることになる。

6.海の森づくり運動
 筆者は5年前に発足した「NPO海の森づくり推進協会(代表:松田恵明鹿児島大学名誉教授)」に所属して、国内沿岸域でそれぞれの地域に自生する大型海藻を利用した「海の森づくり」運動を行っている。下の写真は南国の四国宇和海で獲れたコンブの写真である。 コンブは東北地方以北の北海の産 物と一般的には考えられているが、 四国や九州でも品質や収穫数量では 北海道産のコンブに見劣りするもの の、半年で4~5mの大きさに成長 するコンブが育つ。これによって先 に述べた沿岸漁業の振興や、海洋環 境の浄化には十分役立っている。 我々は今年から東京湾でもコンブの 養殖実験を始める予定である。
 我が会の理事である堀田健二日大教授が中心となって開発した硫酸鉄(二価の鉄イオンを含む)を主成分とする施肥材を、韓国のメーカーと共同開発して今年から国内数箇所で施肥実験を行なう予定である。
 最近話題になった大型の「エチゼンクラゲ」の異常発生は、黄海の海洋汚染が原因だとする説がある。「一衣帯水」の言葉が示すように、日本、韓国(含む北朝鮮)、中国、ロシアは東シナ海、日本海を囲んで密接な関係にある。日本の沿岸海域だけで「海の森づくり」を行えば済むという話ではない。松下電器産業は黄海の生態系保全活動を、世界自然保護基金(WWF)と協力して行なうと報道された。(日本経済新聞:2007.9.8)
 新日鉄は現在アルセロール・ミタルに対抗するために、中国宝鋼集団や韓国ポスコとの業務提携を進めているが、この業務提携を海の環境を守る面にも広げて欲しいものである。鉄鋼スラグの施肥材を利用した「海の森づくり」を、東シナ海、日本海に広げることが出来れば、「コンブと鉄鋼スラグ」は、日本はおろか東北アジア・沿海州そして最終的には 世界を救うことにもなると考えられる。この「海の森づくり」運動に対して、皆様の絶大なるご支援をお願いする次第である。
(NPO 海の森づくり推進協会 理事)

■ノリ不作をもたらすクロダイによる深刻な食害の実態

                            
2021年1月
島田  裕至
千葉県水産総合研究センター東京湾漁業研究所

 
 千葉県のノリ養殖は,平成27年度漁期からノリ葉体が切れて短くなる短縮化症状を原因とする不作が継続している。短縮化の原因を調査した結果,クロダイによる食害が主な原因であることが明らかになったので,その実態を報告する。
 
 2019年11月30日に千葉県新富津漁協のノリ浮き流し漁場において,ノリ葉体が5㎝程度まで伸びたノリ網に水中カメラを設置して連続撮影を行った。午前9時前後に数匹のクロダイが出現し(図1-A),2時間後には数十匹が蝟集して競い合うようにノリ葉体を食べる様子が確認された(図1-B)。そして,3時間後には1㎝程度まで短く食べ尽くされた(図1-C)。
 
 現在,クロダイの食害対策として,防除ネットを設置しない場合にはノリが全く採れない状況に陥っている。一方,防除ネットは摘採や活性処理など養殖作業の度に一時撤去と再設置を繰り返す必要があり,生産効率の著しい低下を招いている。また,ネットによる防除効果は完全ではなく,僅かな隙間からクロダイが侵入したり(図2),防除ネット越しに外側からノリ葉体が食べられる状況も発生している(図3)。
 近年は東京湾以外でもクロダイ食害が報告され,全国共通の問題になりつつあることから,忌避装置など防除効果が高く作業の省力化が図られる対策技術の開発が望まれる。

A
 
B
C
1 クロダイに被食されるノリ葉体の時間的変化
A0分, B:120分後, C:約 180分後)
※画像をクリックするとそれぞれ大きく表示されます。
 A
B
2
クロダイが防除ネット内に侵入する瞬間(A)
と侵入後にノリを食べる状況(B)
※画像をクリックするとそれぞれ大きく表示されます。
3 防除ネット越しにノリを食べている状況
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