発行2005年7月11日  No,32

 

海の森づくりシンポジウム Uが開催されました!

 

海の森づくりシンポジウム Uが海と森と里と都市を結ぶ循環型地域づくりや食料の安定供給・自給率の向上に寄与することを目的にシンポジウムが7日(土)日大駿河台校舎にて開催されました。今回のシンポジウムでは、「コンブ類海藻を用いた海の森づくりの効果」と題し、コンブを用いた海中林と海岸構造物を用いた海の森づくりによる環境修復効果と経済的効果などについて高知大学の大野正夫名誉教授に、「こんぶを液化処理で養魚資料に開発」と題し、海藻類が持つ養魚の脂質代謝や抗ウイルス効果などについて製造方法も交え、久原水産生態研究所所長の久原俊之先生に、「海の森づくりと生物生産性」と題し、海藻類とくにコンブの生産力は高いが蓄積効果低いことなどについての講演があり、今後の海の森づくりの推進に示唆に富んだ内容でした。

 

「里山」、「里地」、「里海」を考えよう!

 松田惠明(まつだよしあき)

海の森づくり推進協会  代表理事

1939年生まれ北海道大学卒業後、米国ジョージア大学に留学。ウッズホール研究所、世界銀行、東西センターを経て昭和55年に鹿児島大学水産学部国際海洋政策学講座に赴任。平成17年に退職し現在に至る。国際漁業研究会会長、国際漁業経済学会理事を務め、平成167月に日本で開催された「第12回国際漁業経済会議」の組織委員長。第一回目の全国大会「海の森づくり こんぶサミットinおおむら」の発起人代表。

 

 我が国の水産業及び漁村は国民に対する水産物の安定的な供給を通じて健康で豊かな日本的食生活の一翼を担ってきました。ところが、かって豊かな海だった沿岸海域は磯やけ・環境汚染・乱獲等によって漁獲は減少し、漁業者は高齢化して後継者は減少の一途をたどっています。

 

 かつて私たちの故郷には、それぞれ「里山」、「里地」、「里海」の思想がありました。しかし、文明開化と共にその思想は薄れ、戦後の経済成長と共に、過疎化は進み、その思想は壊滅状態となり、歌謡曲の世界に残るだけとなりました。戦後50年を経て、手遅れに近い状態の中で、その反省から、それらの思想が全国のあちこちで復活し始めています。まさに日本の文明開化は次世代を食って現代の豊かさを満喫する放蕩息子の大量生産に帰し、その将来は危ぶまれています。

 

 自分たちの村は自分たちで守るとういう江戸時代に発達したコミュニィティの論理に基づく「里山」、「里地」、「里海」の思想は、短期的な経済効率のみを追う市場経済とは、両極に位置します。市場経済の論理は移動性がある資本に依拠し、これだけに依存していたのではコミュニティは成り立ちません。1時的に市場経済に依存した金鉱や炭鉱など多くの鉱山町が、ゴーストタウンと化している例は後を絶ちません。一般的なコミュニティは短期的、中期的、長期的展望を移動性のない環境の中で実現するもので、そこでは、市場経済とどの程度付き合うかが問題となっています。これまでのように市場経済万能では村がゴーストタウン化することは明白です。本当にそれでいいのでしょうか?

 

 私たちの「海の森づくり推進協会」は海からの発想を重視して、健全な「里山」、「里地」、「里海」の再構築を啓蒙する中立的な団体です。「山・川・海の健康を取り戻そう」、「海の森づくり運動を全国に広げよう」というスローガンを掲げ、養殖技術が確立され、扱いやすく、利用価値も豊富で日本人に親しみがある「コンブ」を地球と人を救うお医者さんと位置づけ、コンブ等大型海藻類の増養殖と利活用を通して、環境・水産増殖・地域活性化問題等の解決に結びつけ、「里山」、「里地」、「里海」の再生に結び付けたいと考えております。

 

「里山」、「里地」、「里海」の再生のためには、先ず地元民の積極的な責任ある行動が欠かせません。当協会では、海の森づくりに関心を持つ地元民の積極的な責任ある行動を支援し、モデル地を作り、その輪を広げる役割を果たします。既に、多くの漁民は、かつての魚付林に代わる植林運動を全国的に展開しており、山村との交流も活発に行なってきています。しかしながら、国策として、政府は藻場造成に力を入れてきましたが、それば地場の天然藻場の再生が中心でした。また、これまでの国策としての増殖は、有用魚介類放流事業が中心で、人工海中林造成支援はこれからの課題です。私どもは、1980年代以降の東シナ海の漁獲量の増大の原因を、中国の国策としてのコンブ等大型海藻類の養殖にあると考え、水産増殖効果を含めた環境影響評価を日本でしたいと考えております。

 

1994年に鹿児島県東町で始まった環境・水産増殖・利活用・地域活性化対策としてのコンブ養増殖は、いまや、熊本県、長崎県、愛媛県、広島県、島根県、神奈川県、富山県、千葉県、沖縄県、静岡県等に広がり、

2005年4月には、第1回こんぶサミット in 大村が長崎県で開かれ950人が参加するという大盛会でした。

ここでは、当協会が関与した7事例の報告を含む14報告と23件の関連事例紹介・取り組みが披露され、現地視察では島原こんぶ養殖場・大村こんぶ試験現場・狩野ジャパンを見学し、これまでのこの種の動きの総括となりました。

 

 私たちは、日本沿岸で湿重量で約5百万トンの人工的大型海中林を造成できれば、日本の沿岸の水産資源は倍増すると考えております。つまり、現在の水揚量150万トン(これは昭和20年の水揚量の約3/4)から300万トン以上となると考えております。しかしながら、このような予測を裏付けるモデル実験が必要です。そこで、大村湾のような閉鎖海でこのような実験が出来ないかと考えております。閉鎖海で行なうメリットは次のもうなものです。@栄養塩が豊富で環境影響評価がし易い、A水産増殖効果が測定し易い、B浅ければ、光合成が旺盛で、水の垂直循環も期待でき、作業もし易い、C以上の結果から、効果が計量的に測定しやすく、波及効果が大きい。

 

いま、日本は「自然との共生産業である農林水産業を未来産業として位置づけられるかどうか」が問われています。「海の森づくり推進協会」は、その問に正面から立ち向かって行こうとしているNPOです。今日のシンポジュームではその道ベテランの3人の先生方に、それぞれ「コンブ等海藻の利活用」、「コンブの液化処理による養魚飼料開発」、「海の森づくりと生物生産性」について報告して頂くことになっております。これを機に、「里山」、「里地」、「里海」を私達と一緒に考えるきっかけになってほしいと願っています。最後までご静聴の程よろしくお願いします。

 

 

 

 

 

“こんぶ”を液化処理で養魚飼料に開発

久原俊之(くはらとしゆき)

元長崎市農林水産部長

久原水産生態研究所所長

技術士(水産)

こんぶサミットinおおむら実行委員会事務局長

「目的」この取り組みは、長崎市戸石漁業協同組合の要請を受けて、漁場環境の改善に栽培された“こんぶ”を利・活用する課題として企画し、海藻類が持つ養魚の脂質代謝や抗ウイルス効果等を単体飼料にして従来の飼料へ混合利用することを提案した。

しかし、海藻類は養魚においても消化が悪く、この点を解消す

ためには微粉末化の方法や栄養素の溶媒抽出方法等が考えられるが、これ等の方法を用いては、現在の養魚単価では経費の吸収が困難と考えられた。

そこで、演者が既に開発していた液体園芸肥料の製造方法に加えて、長崎県総合水産試験場・水産加工開発指導センターが開発した海藻麺(わかめ)製造技術の一部使用について了解を受け、新しい技術を構築し、既存の冷凍庫や煮干釜等を用い、現地作業で液化処理を行い、養魚飼料に使うことで漁場環境改善事業の継続と養魚の健康維持に寄与することとした。

「方法」液化処理海藻の養魚用飼料に関する製造方法は、久原俊之個人が発明者・特許出願人となって申請を済ませており、製造フローは別途(パソコン)表示の通りです。

しかし、製造事業を漁業協同組合サイドで希望される場合は、多少の経費(販売価格の2〜3%)と、2・3の制限条件をご理解頂ければ協力いたします。

ご希望があれば、具体的な製造方法や給餌方法及び養魚の健康診断等についても現地指導を行います。

「結果」沿岸漁場の環境改善を目的に実施されている“こんぶ”の栽培事業は、長崎市では有効と認識されつつも、採算性の面から補助の打ち切り後は継続が危ぶまれている。

しかし、この養魚飼料に利用されることで一定の収入が確保され、また、養殖漁民も飼料効果を認めているので、今後は、関係漁民直営での栽培が予想されている。

 

海の森づくりと生物生産性

                                                          

 

高橋 正征

高知大学大学院 黒潮圏海洋科学研究科教授。

1942年神奈川県生まれ東京教育大学理学研究科博士課程終了。理学博士。カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学海洋研究所主任研究員、筑波大学生物科学系助教授、東京大学大学院総合文化研究科教授を経て現在に至る。

 

 

1.                          はじめに

 20世紀は地下資源に依存して、人間社会の物質的な豊かさが飛躍的に進んだ。その反面、地下資源の枯渇と、利用した地下資源が地球上に分散して地球環境を変化させるといった環境問題を背負い込んだ。これには、資源利用に関する人類の知識の乏しさと技術力の未熟さのために、資源濃度の高い地下資源を利用せざるを得なかったといった事情があった。しかし、今や陸上では採算性のとれる鉱山はほとんどなく地下資源の確保が難しくなっている。そうした中、人類は20世紀型資源利用から、地球表面で再生循環する資源濃度の低い資源の利用の重要性に気づき、再生循環型資源利用に必要な知識を得て技術を磨き、一部は実用化に至った。太陽光、風、海水、淡水、バイオマスなどが、21世紀の人間社会を支える有力な資源と考えられている。

 バイオマスとしては、陸上では木や草などが、海では海草、海藻、植物プランクトンなどが有力である。中でも、海藻類は基盤に付着していて、大型で、沿岸域で人間の手を若干加える程度で比較的に容易に増殖させることができるものが多くあり、海草や植物プランクトンに比べて扱いやすい面をもっていて優れている。さらに、一部の海藻類の生産力は生産力の高い農作物に匹敵するものもある。

 ここでは、生態学的視点から21世紀の人間社会にとっての海藻類の有用性と利用の問題などについて考えてみることにする。

 

2.                          自然の海で人工的に海藻類を増やす場合に考えるべきこと

 ある海域の海藻類を現状よりももっと増やそうとする際に、まず、考えなければならないことは、「対象とする海で海藻類の成長を妨げている因子を探し出すこと」である。というのは、対象とする海が、海藻類の成長に適していれば、人間が何もすることなくそこには海藻が生い茂っているはずだからである。海藻類が生えてなかったり、量が少ないということは、それなりの理由がある。

 海藻類の生活に必要な条件は、(1)対象海域に海藻類が付着できる石などの基盤が十分に存在すること、(2)光合成に必要な光が十分に射し込んでいること、(3)光合成と光合成産物を利用して必要な有機物を合成するための栄養塩類が十分供給されていること、(4)水温とその変動が海藻類の生育に適した範囲にあること、(5)海藻類を捕食する動物の捕食活動が異常に高くないこと、である。いくら先の5項目の条件がそろっていても、海藻類の胞子が分布していないと海藻は生えないが、互いに海水でつながっている海ではその海域に適した海藻類の胞子はどこにでも分布していると考えるのが自然である。何らかの攪乱が起こって、海藻群落が消滅したり量が少なくなって、環境が復活して海藻類が戻ってくる際に、急いで藻場を造成したい場合には人為的に胞子を持ち込むと早くできる可能性がある。別のいい方をすれば、人為的にいくら海藻類の胞子を持ち込んでも、先の5つの条件が満たされていないところでは海藻類の定着・成長は見られない。 現実の日本周辺の海を考えた場合、コンブなどの海藻類に成長に必要な光と栄養物質が十分に得られる環境をいかに広く確保できるかが大きな問題である。

「陸の森」と「海の森」の根本的な違い

 海中でアラメやカジメの生えている様子を目にした人が、森のような印象を持ったところから、一部の海藻類の群落を「海の森」というようになったと思われる。陸の森を構成している「木」と、海の森を構成している「海藻」の最も大きな違いは、木は毎年生産される有機物を木部に溜め込んでいるのに対して、1年から数年の寿命しかない海藻類は基本的に有機物の1年以上の蓄積はない。つまり前者は数10年から数100年の定期預金なのに対して、海藻は1年預金である。したがって、例えば、コンブ類の生産力は熱帯雨林に匹敵するが、蓄積効果(炭素の蓄積効果)は熱帯林の1/10〜1/20にすぎない。森林と同じような炭素固定をコンブに期待する場合には、コンブの森野面積は森林の10〜20倍必要だということである。

3.                          おわりに

 20世紀は、地下資源に大きく依存したために、バイオマスは食料を中心としていて、その利用は限られていた。しかし、地下資源の利用を押さえていく必要のある21世紀は、バイオマスは食料だけでなく、社会が必要としているエネルギー並びに各種の物質の多くを供給する基本的に重要な素材になる潜在能力をもっている。

 これまでのバイオマスの利用では、例えば建築材や家具材として利用した後は、廃材として焼却処分された。これはバイオマスの単なる一次利用にすぎない。廃材は、材を構成している成分に分けてから、その成分を素材にして、現在は石油からつくられている様々なプラスチックなどを生産し、プラスチックの使用後は燃焼して出てきたエネルギーを利用する、といった複数回の高次利用システムを社会に作りだしていく必要がある。地下資源に依存している部分を、できるだけバイオマス利用に切り替えていく。

 海藻類を生やして直ちにメタン発酵してエネルギーをとりだしたのでは一次利用にすぎない。海産大型海藻類は、カリウムやヨードなど海水中の特定の金属類を高濃度に濃縮する性質を持っていて、それらを利用することにより、海水から有用鉱物資源を抽出することも可能になる。金属を抽出した海藻類の残りは、別の様々な用途に有効利用する必要がある。

 コンブの森づくりでは、当面は、現実的な利用を着実に進め、しかし、将来的には社会を支える中心的なバイオマス資源としての利用を視野に入れておくことが肝要である。

 

コンブ類海藻を用いた海の森づくりの効果

            高知大学名誉教授 大野正夫

1940年生まれ東京大学大学院農学系研究科博士課程終了後、高知大学に赴任。昭和60年高知大学海洋生物教育センター教授、平成15年同大学を定年退職。四国土建滑ツ境事業部技術顧問。高知大学との共同研究で藻場構成種の種苗生産を行っている。研究分野は、藻場の生態学と藻場造成、海藻類の養殖技術研究、熱帯産海藻類の生態学。

 

 このシンポジウムでは,「コンブ類の利活用」という課題を戴きましたが,内容を考えているうちに,上記のような課題にした方が,話やすいのではないかと思い訂正させて戴きます。

1960年代に入って,日本の沿岸域は埋め立て,防波堤,離岸堤や漁港の整備が進み,浅海域の環境が激変してゆきました。1990年代に入って地球温暖化とともに,コンブ科海藻を核とする大型海藻が形成する藻場の衰退が著しくなり,その回復,磯焼け回復が大きな課題となり、沿岸海域環境と藻場の修復研究が活発になっております。同時に、海岸構造物を利用した“新たな海の森の創生”の実証試験が盛んになり,大規模な施策が実施されつつあります。この海の森づくり協議会が推進するコンブによる海中林運動は2000年から行われています。ここでは,コンブを用いた海中林方と海岸構造物を用いた海の森作りによる環境修復効果と経済的効果などついて述べてみたいと思います。

 

コンブを用いた海中林

 コンブの自生地は寒海域であり北海道と本州北部ですが,1970年初頭にコンブの養殖技術が確立して,コンブ自生地より南の日本の温海域でもコンブ養殖試験が試みられました。しかし,養殖コンブは,天然コンブより薄いという質的に劣ることからやめる海域がほとんでした。ワカメ養殖を行っている長崎,神奈川,徳島の海域が,ワカメと同じ養殖場でコンブ養殖が,現在まで行われています。1997年に故境一郎先生のコンブ養殖による海中林つくりの提唱やこのNPO団体の活動によって,最近,ふたたび,コンブ養殖を行うところが増えております。

 

漁業者と住民で行うコンブ養殖

この4月に,長崎県の大村で“コンブサミット”が行われて,全国のコンブ養殖の事例が報告されましたが,そこで新しい動きが注目されました。一つは,コンブ養殖が水産業として収入を目的としたものでなく,環境浄化の一環としてコンブ養殖が行われている。コンブ養殖に関わるグループに,漁業者だけでなく一般市民も加わっている。コンブ養殖が環境問題を考えるボランテア活動ととらえている。生産されコンブは,葉体が厚くて長いこという従来の品質向上を目指さず,生産量を多くすることを生産目標にしている。生産されたコンブは,味つけした惣菜の原料,コンブジャム,コンブサラダのような新たな用途を開拓している。

 コンブ養殖は,黒潮が流入する土佐湾の中央部の志和漁協で, コンブの種苗を青森から取り寄せて10年ほど続けています。毎年春には,コンブ祭りを行って地元住民が楽しんでいます。コンブの生育は年により変動するので,冬のコンブ養殖は,海の環境変動を知る手がかりであり,生産されたコンブは,漁協婦人部が加工し地元や高知県内で生ワカメのようにして販売しています。ここから多くの収入を得ようとは思わっていず,副業として損をしない程度に収入があるので続けているそうです。このことから,コンブ養殖は,数cmに伸びた種苗が手に入れば,日本国内どこでもできると言えます。コンブは数cmの葉体が一ヶ月で1mの長さになるので,海の生産力を知り,その年の海の状態を知るバロメーターになります。生産されたものは地元を中心に消費する体制を整えて,コンブ養殖を漁業者と地元民とで行い漁協と地元民との交流の綱渡しという目的を持って行えば,大きな利潤はないかもしれないが,大きな人間関係の輪ができることが期待できます。

 

CO2削減とコンブ養殖

 一方では,コンブ養殖を外海域で,大規模に行おうという計画もあります。このプロジェクトも今の科学技術のレベルであれば可能でしょう。この場合は,CO2削減量などの目標をたてて,その効果を見積もられた国策として行う必要でしょう。山に木を植えたり,マングロープの苗を植えることと同じ次元で検討されれば,外海域に大型コンブ海中林を造成するは,政治的,経済的効果もあります。この場合,出口の生産されたコンブの利用分野も検討しておく必要があり,付加価値に高い医薬品,健康製品への利用開発が研究課題となります。

 

海岸構造物を利用した藻場造成

 コンブやカジメなど大型褐藻が生える藻場を造成するには,コンクリート・ブロックなどの投入に多額の予算がともなうので,このような事業を進めるには,藻場の経済的効果を示す必要があります。藻場由来の水産資源の生産量は,藻場の種類とその密度で漁獲される魚介類が異なり,また、稚魚期には藻場にいるが、大きくなると出て行く魚種が多くて漁獲高の算出が難しい。藻場の経済的価値は、かなり地域によって差があるが,マリノフォーアム21の報告書などから,妥当と思われる数値は、コンブ場では15万円/ m2,アラメ・カジメ場でサザエ,ウニ,アワビ類などの餌場として17万円/ m2,ガラモ場では、磯魚の漁獲や外海に出た魚類の漁獲高から推定から20万円/ m2が見込まれています。

 離岸堤や防波堤は、波を砕くことにより、酸素量が多く、多様な稚魚が蝟集して保育場の役割を果たしていることが知られるようになりました。海岸構造物の基盤には、海藻が着生して豊かな藻場になっており、高知県下の離岸堤の海藻の現存量を測定すると平均12 kg(生重量)/m2で見積もられています。このような藻場には波浪で付着珪藻が葉体から離脱して浮遊しており小型甲殻類も多く、稚魚に適した餌料が豊富です。新たな藻場を海岸構造物に作ることは,財政の乏しくなる今日,非常に優位な施策であります。すでに,海岸構造物を単に波浪を防ぐための目的のから,水産生物資源の増殖の場としても活用しようという施策が実施されています。従来の防波堤は、コンクリートブロックが、海面高く突出していましたが、海面から突出する部分をなくして、わずかに波が立つ程度にして海底に隠れる部分を浅く広くするようになりました。大波はそこで消されて、サンゴ礁のリーフのような景観になるので、このような防波堤を、「人工リーフ」と呼び、各地の海岸で施行されています。人工リーフは浅い基盤であるので藻場が形成されている。このような自然に調和する海岸構造物を設置する「エコ・コースト」事業が、海岸防災事業で行われています。

 

漁港と藻場造成

港や漁港内は、広い静穏域を作り、海底は大型海藻が繁茂して藻場を形成しており、良い水産生物の増殖場になっています。国土交通省は、積極的にこのような人工静穏域を、水産資源の増殖の場にする計画を立てており、「エコ・ポート」と呼んでいます。空港建設にも、“海の森創生”が組み込まれてきました。関西空港の人工島造成は,藻場が形成しやすいように傾斜面を広く造成して,カジメなどを移植しました。周囲からのほかの海藻胞子も流れついて、数年でカジメを中心とした大型褐藻群落になり、多くの魚介類が蝟集しており、以前にはみられなかったイセエビなどが確認されるようになりました。

 

今後の藻場造成事業

 海岸構造物を利用した藻場造成事業は、すでに、20年あまりの歳月が過ぎました。今までの事例から、人為的な藻場造成の基本的な理論や技術は確立されたが、藻場造成事業は、どこでも同じ方法で成功するものではありません。充分な成果がみられないところもある。藻場造成には適地選定が一番難しい。砂泥地に基盤を設置して、藻場を造成しようとする場合は、詳細な事前環境調査が必要であります。さらに周囲に海藻群落がない区域などに基盤を設置して藻場を形成させるためには、海域環境に対する生態学的判断と海岸工学技術の協力が必要です。