発行2006年9月11日  No.35
海の森づくりシンポジウム Vが開催されました!

◆海の森づくりシンポジウム Vが生態系を重視したコンブ等大型海藻による『海の森づくり』技術の普及により、懸念されている「磯焼け」の弊害を防ぎ、沿岸域の水質浄化と水産資源増殖を図ることを目的シンポジウムが9月10日(日)日大駿河台校舎にて開催されました。
今回のシンポジウムでは、
『海藻は本当に地球温暖化対策として役に立つのか?役に立つとするとどの程度か?』と題し海洋化学の世界的権威であられる北海道大学名誉教授の角皆静男先生に講演していただきました。また境一郎エコシステム研究所主任の陶 敏彦先生に『浮沈式大規模沖合海中林の造成技術は何処まで進んでいるのか?』と題し、境一郎エコシステム研究所主任の陶 敏彦先生に、高知大学名誉教授で応用藻類学の世界的権威の大野正夫先生には前回のニュースでお知らせいたしました『沿岸構造物を利用した海の森づくりの過去・現在・未来はどうか?』といった内容で講演いただきました。
講演要旨 角皆静男(北海道大学名誉教授)
海の中で何が起こっているか:海藻の役割は?
 海洋における生物は、海洋環境という舞台で踊る俳優に例えてもよいだろう。なぜなら、俳優である生物は勝手に振る舞うのではなく、物理的・化学的条件で制限された舞台の上で、その物理的・化学的条件が作り上げた進化の歴史、つまりシナリオに沿って演じているからである。熱、光、動きなど物理環境は比較的感知されやすい。ここでは、目に見えず、比較的見過ごされやすい、化学環境と生物、特に海藻など植物との関係を取り上げて見る。
 海水中にはほとんどすべての元素が存在するが、生物に必要で、植物が光合成で有機物を造る際に不足しがちな成分は多くない。例えば、水と生体の主成分である炭素(炭酸塩)が不足する海水はない。また、カリウムは、陸の植物では不足しがちだが、海水中では主成分として十分に存在する。不足しがちな成分は、蛋白をつくる窒素(硝酸塩など)、核酸に含まれるリン(リン酸塩)、珪藻や放散虫の殻を造るケイ素(ケイ酸塩)、酵素に入り、電子のやりとりに関わる鉄(2価または3価)である。なお、鉄が不足するのは、化学的に安定な3価の鉄が水に極めて溶けにくく、海水から速やかに除かれてしまうからである。また、有孔虫や円石藻など石灰質の殻に入るカルシウムも主成分で不足することはない。
 上記の不足しやすい4成分のうち、鉄は、地殻の主成分で生物が必要とする量はわずかなので、深層水が湧き上がってしばらく経てば、河川や大気や水平混合で補われる。ケイ素は、新生代に入ってプランクトンの主役を務める珪藻には必須であるが、珪藻だけ増えると、先に海水中のケイ酸が枯渇してしまうので、生物種の交代に深く関わっている。また、ケイ酸は人為的に増えることはあまりないので、人間活動によって富栄養化すると、ケイ素を必要としない赤潮、クラゲ(鞭毛藻類)、石灰藻(磯焼け)などが増え、いわゆる環境問題が生ずる。
 結局、海洋における生物量は、栄養塩であるリンと窒素の化合物の量が決める。窒素は、地球規模で見ると、脱窒素と窒素固定で大気の主成分である窒素分子とやりとりする場合があるので、ここではリンを指標にする(リンも土壌粒子との間でやりとりされる場合がある)。海洋全体では、栄養塩は、河川を含む陸、大気、海底の境界で出入りするが、一つの水塊においては、有機物粒子の分解、濃度の高い水との混合がなければ、生物生産活動に使われてしまえば、どんなに日射があり、炭酸があっても光合成は進まない。土壌中にいくらかあって根から補給される陸の場合とは異なる。
 次ぎに、大気CO2の吸収に果たす海洋生物の役割を考えてみる。陸では、木の幹に炭素が貯まるので、同化量(光合成量、基礎生産量)が増えれば、吸収量も増える。しかし、海の場合は、異化量(分解量)が大きく、正味の蓄積量を求める必要がある。これは、海底に堆積する有機炭素の量で、ほとんど無視できる。海洋におけるリンの平均滞留時間は50万年程度であり、海水の循環時間は千年程度だから、表層で同化され、深層で分解されるを500回繰り返して、海から除かれる。さらに、海水中に存在する栄養塩は、陸から新に入るものを除けば、有機物から再生したものであり、その際同時に再生した炭酸はすでに大気に逃げ出しており、表層水の栄養塩を増やそうと海の水をかき混ぜれば、それだけCO2が海から出てくることになる。
 現在、海洋が吸収する人間活動起源のCO2はC量で2-3ギガトン(20-30億トン)とされている。これは、全海洋平均で5-10 gC/m2になる。東シナ海で35 gC/m2で大気CO2を正味で吸収していることを我々は見つけ、全大陸棚で大気CO2をこの割合で吸収していると、1ギガトンにもなるので、大陸棚ポンプと名付けた。これは人間活動によるものではないが、モデル計算に入ってないので、その分海洋の人為起源のCO2の吸収量が多いことになる(大陸棚の3.2 %を占める東シナ海では300万トン)。その機構を次のように考えた。冬は浅い大陸棚は冷え、大気CO2を吸収しやすい。沿岸域は一般に生物活動が活発で、夏は密度躍層が発達して混ざらず、海底付近で有機物が分解して高濃度となった全炭酸を外洋に送り続ける。この海底付近で分解する有機物としては、海藻からの放出物の寄与があるかもしれないが、プランクトンの遺骸が大部分だろう。  
講演要旨陶  敏 彦(境一郎ES(エコシステム)研究所 主任)
「沖合における浮沈式大規模海中林の造成及び栽培技術」   ――― 栽培漁業への夢を描く ―――
1.これまでの取り組み
 @ 小樽・増毛・上磯 A 青森 B 千葉 C 神奈川 D 三重 E 福井 F 富山
 G 島根 H 広島 I 愛媛 J 長崎 K 熊本 L 鹿児島 M 沖縄
2.沖合い浮沈式の先駆け(北海道のほたて漁業) 噴火湾の事例 DVDを見ながら説明
  @ 使用する漁船・設備
A 経済効果
3.e ― アワビ栽培(エサとなるコンブとの複合栽培) 図による説明
4.地域の産業興しで雇用の増大
@ 施設の設計・施工 
A 造船・舶用機器・鉄工
B 資材(ロープ・篭・浮玉)
C 種苗産業
D 陸上施設の設計・施工
E 陸上作業用設備・機械・備品類
F 流通・金融のインフラ整備
G パート等の雇用の増大
5.「海の森づくり進行状況」
@ 沖縄
A 長崎壱岐東部漁協
B 三重県鳥羽市菅島漁協
C 千葉県白浜漁協
D 函館上磯漁協
私は、かって噴火湾でホタテの養殖をしていました。1994年に私の恩師故境一郎先生が北海道のホタテ養殖に使われている浮沈式大規模養殖施設を使ってこんぶの沖合海中林造成試験をやるので手伝ってほしいと頼まれたのがきっかけで、この世界に入ってすでに10数年がたちました。試験的取り組みはすでに、14都道府県で実施されております。
しかしながら、環境浄化や水産資源増殖効果というものは、公的な興味ではありますが、係わる漁協や漁民にとっては利益還元が最大の関心事でした。したがって、関連の話としてアワビが出てくると、自分の経験や技術レベル、知識レベルと無関係に、直ぐにアワビ、特に値段が高いエゾアワビ、に興味がはしり、夏の高水温時の管理や餌となる海藻の周年供給といった大問題に直面し、行政支援も余り無く何処も悪戦苦闘しております。これに鞭をかけているのが、人海戦術です。船の機械化に対する少しの投資を怠ったばかりに、其の作業量は膨大となり、利益が上がらないと益々意欲が減退してゆきます。 そこで、今日は、噴火湾の事例から、北海道のホタテ漁業で使われている漁船・施設を紹介し、其の経済効果に言及したいと存じます。 次に、私達が推奨している公共事業としての浮沈式海中林造成施設を紹介します。
 次に、それがどうして漁業者の収入を増やし、地域産業を興し、漁民のみならず漁村住民の生活を豊かにするかを説明したいと存じます。その骨子は、バランスの取れたコンブとあわびの複合栽培です。アワビをコンブの栄養塩の供給源として扱い、副産物としてのアワビを付加価値の高い市場で販売することです。この循環が公共事業の初期投資をきっかけに、地元漁民による施設の維持管理のみならず、拡大再生産に繋がります。この循環はまさに日本が世界に勝る漁協組織を生かした政府と漁民との共同管理です。このような方式は今後の日本の公共事業のモデルとなるでしょう。
海の森づくり推進協会の総会が開催されました!
◆活動方針
協会の理念・目的等の議論を進めながら体制の整備を図りつつ次の事業をすすめる。
@ 「「100m種糸運動」並びに「こんぶサミット」の全国展開を呼び水として、本格的な大規模海中林造りを継続して進める。
A 各地における「海の森づくり地域活動」並びに「海藻ビジネス研究会」及び「応用藻類学会」等とのネットワークを強化する(愛媛、長崎、神奈川、千葉、富山、沖縄、熊本、島根、広島、静岡、香川、徳島、岡山、山口、大分、大阪、和歌山、三重、愛知、鹿児島、宮崎、佐賀、鳥取、福井、石川)
B コンブの種苗供給対策を強化する
C コンブの利活用対策(研究開発と販路拡大)を強化する。
D 海の森づくりのための各種技術を収集・整理・評価し、講演・研修・サミット・展覧会・イベント等を通してその情報を全国に普及する。
E 会員基盤並びに財政基盤を強化する。
F 関連団体並びに市民団体との連帯と広報を強化する。

新任役員に坂井 淳氏並びに能登谷 正浩 氏が就任いたしました。
長崎、富山、鹿児島で支部設立の準備がはじまりました。

世界人口65億突破
21世紀に人類が直面している最大の地球的規模の問題は、これらの爆発する人口にどう食糧を供給し得るのか、温暖化の影響がどこまで進むのか、と懸念されています。
食料問題では先進国と発展途上国では、一人当たりの食料消費量には大きな格差があります。
1994年次のデータで日本の一日一人当たり平均摂取2921カロリー、インド2229カロリー。1人当たりのカロリー消費を比較すると、現在でも20%以上異なります。
食糧の消費の方法には、穀物を人間が直接食べる直接消費と、穀物を家畜に食べさせてそれを人間が食べるという間接消費があります。 先進国では、大量の肉を食べているが、肉食は、穀物を直接消費するのに較べて非常に効率が悪い。食肉で穀物と同じカロリーを得るためには、6〜7倍の穀物が必要となる。6〜7カロリーの穀物を使って1カロリーの食肉が生産されています。 低所得国では平均して、一人当たり穀物消費量は年間約200キロ、一日約460グラムです。 カロリー摂取量の70%以上が、米などの単一の穀物から摂取されています。
これと対照的に、米国やカナダのような豊かな社会に住む人々は、穀物消費階層の最上段に位置し、年間約800キロの穀物を消費している。
このように、世界の最も豊かな国々と最も貧しい国々の間の一人当たり穀物消費量の比率は、およそ4対1です。
また、1万年まえ中東で始まってから20世紀半ばまで、農地は谷から谷へ、大陸から大陸へと広がり、耕作面積は拡大したこの期間を通じて、食料生産量の伸びは主として耕地面積の拡大によるものでした。 この拡大の時代は20世紀半ばに農業開拓のフロンティアが無くなったときに終わったようです。
その時から1981年まで、生産量の増加の五分の四は土地生産性の向上によるものでした。穀物農地は、81年に7億3500万ヘクタールでピークを打った後に減少しはじめ、93年には6億9500万ヘクタールにまで低下しました。
したがって、農業収穫量の歴史は三期に区分されています。
第一は、今世紀半ばまでの農地拡大の時代である。 第二は、増産の大部分が土地の生産性の向上によって達成され、それに若干の農地拡大がともなった1981年までの時代。そして第三は、生産量の増加が全て土地生産性の上昇によって達成されたそれ以後の時代である。
化学肥料の多投入、過放牧など農業生産に起因する土壌劣化、森林の伐採などにより農地の砂漠化が進行しており、年間で日本の農地面積474万haを上回る500万ha以上の農地が砂漠化しているといわれています。環境へのインパクトを考える限り、今後作付け面積や農地面積を増やすことによって食糧供給を増やすことには少なからず限界があるといえます。
このほか、人口増加に伴う穀物需要の増加に対応するためには農業用水が大量に必要となりますが、農業用水は2025年には1995年時点に比べ26%の増加が見込まれるとともに、工業用水、生活用水については農業用水以上に使用量増加が見込まれています。加えて、既に安全な飲用水の確保ができない人々が世界には12億人も存在するなど、限りある水資源に対する需要がますます高まっていく状況にあります。また、窒素肥料の多用による地下水汚染の問題の発生等に伴って、EUなどで環境保全に対する意識が高まっていることも、農業生産拡大の制約要因になると考えられます。
21世紀の食料問題を解決する糸口は水産資源に掛かっている言っても過言ではないと思います。
海の森づくりをすすめ食料問題・温暖化問題をの解決の足がかりを作りたいですね!

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